読んでくれていたのは、農園主のあきらくんだけではなかったようです。
さすが、名前負けしていないなあ。「つながり自然農園」。
新聞の左端に書いた『北海道へお越しの際はご一報。0円ハウスオープン!』。
不親切な文句に食いついたのは、酔狂なバイク乗り。
僕は彼がどんな人か昨夜まで知らなかったし、彼も僕のことを知らない。
ヒトとヒトは、四の五の言わずに、電話もメールも適当でいいから、とにかく、ただ顔を突き合わせればいい。
顔が見えないと、ヒトは簡単にヒトを見失う。
ヒトは僕らが思っている以上に単純な生き物だから。
いつから友だちだとか、何回遊んだとか、初めましての挨拶とか、どうでもいい。
面倒くさいことは全部すっ飛ばして、ジンギスカンでもつまみながら、たった一瞬、最高のときを過ごしたいだけ。
お互いの世界地図を、見せ合いっこしよう夜。
笑いながら生きるために必要なものは、本当に少ない。少ないからこそ、手にすることは難しいということでもありますが。
‥アリュート、アレウト、ウナンガン、アラスカ鉄道、トーテムポール、バイダルカ、小樽、新井場さん、松原さん、新谷暁生さん、ジュノー、フェアバンクス、クイーンシャーロット島、ワタリガラス、「Into the Wild」、ムース、星野道夫、ウナラスカ、カムチャッカ、利尻、キスカ、ベーリング海、トリンギット、クリンギット、ユピク、イヌイット、アイヌ、インディアン、グリーンランディア、インディアン、マッキンリー、デナリ、植村直己さん、オーロラ、犬ぞり、北海道、ヒグマ、知床、コンブ漁、四国、高知、瀬戸内海、坂口恭平、長野、四万十、パタゴニア、日本一の山girl、七尾旅人、フェリー、0円ハウス、十和田、47都道府県、根、現実、旅、オアフ‥
初めてかもしれない。
―カヌーという言葉と共に抱き続けていた憧れの場所のことを言葉としてしっかりと体内から放出したのは。
―言葉が通じるだけでなくむしろ、教えてもらえたのは。
現実としてそれらの世界を知る彼の言葉が、僕を本の世界から引っ張り出していく。
言葉は、恐ろしい。
口にした途端、口にされた途端、一気に現実味を帯びていく。まるで、魔法。呪力?
僕は長いものには巻かれないけれど、言葉には逆らえないのだ。
「いつか」が、そう遠くないところまで来ているようだ。
旅の虫を鎮めるのが昨夜は大変だったけれど、今朝、支笏湖に向かいながら思った。
「ココデハナイドコカ」と「ドコデモナイココ」。ふたつは、ひとつでは?
「ココデハナイドコカ」を日常として生きている彼が今向かおうとしているのは、多分、「ドコデモナイココ」。
あちこちで世界を一瞬で作りあげてきた彼が、一つの世界をつくるならば、一点にエネルギーを注ぎ込んだならば、それはそれは馬鹿みたいに面白い世界にしかならないでしょう。
こういう種類の刺激を受けたのは、何だかとても久しぶりな気がします。心地よい敗北感。
まだまだ世界には、名もなき馬鹿が、愛すべき馬鹿がうじゃうじゃいる。そう思うだけで、中途半端な根無し草の心はふっと軽くなるのです。
ふっと軽くなるのは「安心感」。それを上回る厄介なヤツが「焦燥感」。
何に焦っているのかって、まだ見ぬ世界が多すぎること、自分の(定規の)小ささに、です。
メーターを振り切りたいと願い続けている自分の心をまざまざと見せつけられてしまった。
旅の虫を鎮めるのに難儀しそうです。
問題は沢山あれど、この世界はなんて素晴らしいのだろう。
誰かにすごいと思われるより、すごいと思える誰かといたい。
↑ドコデモナイココ―SHIKOTSU。
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